寿(ことほぎ)
服飾文化研究会は本年創立五十周年の大きな節目の年を迎えました。調査研究室もこの記念の年に芳しく展示のタイトルを寿(ことほぎ)誕・育・縁・悠として十二月に展示公開を開催いたします。
人がこの世に生を受け、生涯を閉じるまで、さまざまに人生を送ってまいります。日本人の折々の知恵に触れながら、人生を四つに大別し
誕【たん 誕生にまつわること】
育【いく 育(はぐ)くまれ成長していく】
縁【えにし 親元から離れ、就職、結婚による縁戚関係が結ばれる】
悠【ゆう 子供も巣立ち、健康で悠々自適に生きていく】
四季の展示は、四月から十二月迄、調査研究室の文様裂の中より、大別した四つの項目に因んだ文様を選び展示いたします。先ず四月から六月迄は、誕と育が感じられる文様をご覧ください。
兜(かぶと) 縮緬 男物 長襦袢
陣羽織風の横段の背景に弓矢、采配、兜と戦(いくさ)の道具が詳細に描かれ兜の前立の獅子は勇壮と厄除けの象徴、たれの蜻蛉(とんぼ)は勝ち虫といわれるこの絵柄に、人生の困難を乗り越え勝ち進んでいける様にとの親の願いが込められているようです。
雛まつり 平絹 女児 長着
幼児の厄災の身代わりとした形代(かたしろ)が玩具となって雛人形になりました。
一斤染(いっこんぞめ)色のやさしい地に桜とともに雛飾りをおき女の子の幸せと健やかな成長を願います。
振振毬杖(ぶりぶりぎっちょう) 錦紗縮緬 長着
振振毬杖は子供の健やかな成長を願う吉祥的玩具文様です。
八角形の槌(つち)に似た形に車を付けて引いたり、柄を付けて振り回し毬(まり)を打ち合う童子の正月の遊び道具でした。後世には豪華な文様を描き男児の誕生祝等に贈られるようになりました。
風車 縮緬 長着
風車紋様は玩具のかざぐるまを図案化したものです。魔除け、風にのってどんな困難も軽やかに乗りこえていける、まめに動くなどの意味があると言われています。子供が、すこやかに育つ様にとの願いがこめられています。
昔話と宝尽くし文 平絹 長襦袢
青紫色の地「桃太郎」「金太郎」「かちかち山」―昔話の一場面が文様に描かれています。宝尽くし文をよく見ると、金太郎の担いだ斧や「舌切り雀」に出てくる糸切り鋏もあります。子どもの成長を見守る優しさと力強さを感じる文様です。
地紙 武具 縮緬 男児 長着
その昔、蓬(よもぎ)や菖蒲(しょうぶ)で邪気を払う宮中行事が江戸時代に武家や豪商の間で行われました。男児の成長を願い菖蒲―尚武(しょうぶ 武を尚ぶ)につながり、鯉のぼりや武具を飾るようになりました。
玩具尽くし 錦紗縮緬 女児 着物
微笑ましい表情の鯛車や風車(かざぐるま)、独楽(こま)、達磨(だるま)、雪うさぎ等が、赤白に染められた鹿の子文様(染め鹿の子)の上にちりばめられています。鹿の子文様は仔鹿の背の白い斑点に似ている所からの名称です。
かちかち山 モスリン 男児 長着
かちかち山は室町時代末期から語り継がれている童話で〝泥の舟に乗るタヌキにならないように良い子は気をつけましょう〟という教訓を伝えています。モスリンは明治大正時代前期に着物の下着として広まり戦前には正絹の代替として流行しました
私の好きなもの モスリン 長着
子どもはいろんなものに興味を持ちますね。キリンにお馬に動物大好き、音が出る楽器に興味津々、行ってみたい世界の国々。こんな長着を着せてもらったらワクワクどきどき飛び回ったに違いありません。
桜 二越縮緬 長襦袢
私は桜、大きな桜。今日も子供たちが三々五々私の下に集まり、野球に夢中。川では漕艇部がレガッタに向け猛練習。息を合わせて「ソーレ」私はこれからもずーっと子供たちの成長を見守り続けます。そんな優しさを縮緬に染めました。
鯉 平絹 羽裏(額絵)
鯉は龍門と呼ばれる急流を上(のぼ)り、やがて龍になるといわれ、出世魚として、古くから立身出世の象徴になりました。日本でも端午の節句に鯉のぼりをあげるように、鯉は、子供がどんな環境も乗り越えて力強く生き抜くことができるようにという親の願いが込められています。
兎と亀 モスリン 女児 長着
イソップ寓話集の一つ兎と亀。明治時代から教科書にも掲載されました。世界中で読まれたお話ですが、兎と亀の童謡は文科省唱歌で、日本独自のもの。繊細な型染めのこの着物で、もしもしかめよーと歌っていたことでしょう。
麻の葉に蝶 モスリン 長着
麻は成長が早く強い生命力の象徴とされ、六角形の葉の形は魔除けともされています。これに再生や復活を表すとされる蝶も取り合わされた文様です。元気に健やかに時を重ねられますようにという願いを込めたものでしょう。
影絵(動物) モスリン 長襦袢
幼い頃、障子や天井に手影絵を写した懐かしい記憶が蘇ります。成長と共に忘れてしまった遊びを楽しんでみませんか。身近な動物で他にハト、キツネ、ネコなどスマホのライトで簡単に楽しめますよ。