初秋から晩秋へ~秋いろいろ~
立秋を過ぎた頃より、空気も少しづつ変化して、いよいよ秋の訪れです。夜には虫の声が心地よく響き、移りゆく季節を感じます。
秋の野山に自生する草花は、きものの文様にも多く描かれています。
秋の七草もそのひとつ
「萩の花、尾花、葛花、なでしこの花、女郎花(おみなえし)また藤袴、※あさがおの花」
※あさがおは近代では桔梗とされています。
深まりゆく秋と共に山の紅葉も錦を織ったように美しく彩られます。灯火楽しむ候、秋の夜長の読書も良いものです。稲穂も頭(こうべ)をたれ、果実も実り、収穫の喜びもあります。
日本の春夏秋冬には、それぞれに美しさや楽しみがあり、日本の風土の素晴しさを改めて感じます。
この度は、初秋から晩秋まで、文様裂の中からも秋の風情をお楽しみ下さい。
ぶどう 二越縮緬 長着
西方から伝来し鎌倉時代に日本での栽培が始まった葡萄は沢山の実をつけることから豊穣や子孫繁栄を表す吉祥文です。唐草葡萄は正倉院由来の文様です。
秋の夕暮れ 錦紗縮緬 長襦袢
遠山の松、野辺の繁みの奥に茅屋(※かやや)。静かに暮れゆく里山の風景ながら、水辺に光が射し秋草の小さき花々が華やかに浮かびあがり、一幅の絵のような秋の風景文様です。
※茅屋 草ぶき屋根の家
月窓 二越縮緬 長襦袢
秋の夜長、この家(や)の主は今宵も読書三昧。月窓の外には灯りを求めて蛾がクルクルと飛びかいます。深まる秋を描いた粋な長襦袢地です。
柿 羽二重 羽裏
柿はビタミン類が豊富で、医者いらずの万能薬。健康を表す文様です。横に並んだ柿は、一つ一つ表情が違いユーモラスで、実りの秋を迎えた喜びを感じます。
乱菊に秋草 モスリン 長着
青紫地に菊の花びらをそれぞれ大きく長くして、咲き乱れた様子を表した文様です。秋の草花が菊の花の華やかさをよりいっそう際立てています。
糸菊 錦紗縮緬 羽織
くるくると巻かれた花弁の曲線はアール・ヌーヴォーの影響なのでしょう。東洋の菊を洋風にアレンジした和洋折衷の感覚が新鮮です。大正ロマンの頃の長羽織だったようです。
稲穂に雀 錦紗縮緬 羽織
稲文は田の神信仰と結びつき、富や五穀豊穣を願う文様の一つです。雀と共に描かれている事も多く、五円玉も稲文ですね。脱いだ羽裏からもチラリと秋の風情が伝わります。
秋に遊ぶ鴨 錦紗縮緬 羽織
枯れ草の中を仲間と集う鴨。餌を探しているのか、はたまた隠れんぼう。晩秋の情景を錦紗縮緬の羽織にしっとりと映しています。この文様の羽織にはどのような着物が似合うかしら。
四季花に冊子と軍配団扇 錦紗縮緬 羽織
軍配団扇は、武将が兵を指揮する際に使用したことから決断力や行動力を表現します。冊子は、知性を表し、さらに四季花が華やかさを添え、凛とした女性の羽織る姿が目に浮びます。
雅楽 二越縮緬 長襦袢
美しい王朝文化の調べを奏でる雅樂の楽器、鼓、笙などが、檜扇、箱、優雅な曲線を添える組紐と共に描かれています。
歌舞伎 平絹 羽裏
鮮やかな朱色地を力強いタッチの刷毛目で区切り「まねき看板」が白く染め抜かれています。歌舞伎の代表作「助六」「勧進帳」の長唄稽古本等も描かれた、江戸の粋が感じられる歌舞伎にちなんだ文様です。
豊穣 人絹 長着
秋は実り(稔り)の季節。豪雨や災害のニュースを見るたびに、丹精して育てた農産物のありがたさを思います。大人も子供も鶏さえも豊作の喜びにあふれ、思わずほほえみたくなる情景です。
桔梗 紋縮緬 長着
桔梗は秋の七草の一つで、古来から歌に詠まれ、絵画の題材としても愛されてきました。桔梗紫と呼ばれる程、色が美しいため、夏秋の訪問着や染帯などにも多く用いられています。繊細で緻密に描かれ、目を惹きます。
豊穣 二越縮緬 長襦袢
カラン、カラン。鳴子の音をものともせず、雀が稲穂を啄みます。今年も満作。辺り一面黄金色に。風に吹かれて金色の波が揺れます。そんなのどかな原風景の長襦袢です。
柿 錦紗縮緬 長襦袢
「柿が赤くなると医者が青くなる」といわれる程栄養価が高く健康によい果実です。枝にはいくつか残して、一つは天に、もう一つは地に最後の一つは鳥の為に・・と聞いたことがあります。
本棚 平絹 羽裏
読書の秋。千帯、小袖幕などきものに関する本。日本史、支那史、光琳、言海など歴史や人物に関するもの。ペリー来航時に持ち込まれた炭酸がtansanでしょうか。当時を偲ばせる世相柄です。
菊立湧 錦紗縮緬 長着
水蒸気を意味する「雲気」が立ち昇っていく様は、縁起の良い文様です。長寿や邪気払いを象徴する菊。その菊を立湧の間にあしらった菊立湧は、色鮮やかな色合いで、古典的でありながらモダンさも感じられる吉祥文様です。
宝尽しに菊 二越縮緬 長着
紫紺色地に宝尽しと菊の文様。宝尽しは、福徳をよぶ代表的な吉祥文様として晴着などに多用されます。菊は中国では仙花といわれ、薬の力を持つ花とされています。
蔦に小鳥 塩瀬羽二重 帯
蔦は平安時代から絵巻物や和歌で紅葉した風情が好まれていました。江戸時代には繁殖力旺盛な事から繁栄を願い家紋にも用いられ、徳川吉宗が好んだ事から将軍家でも替紋として使われるようになりました。
蜘蛛の巣に落葉 塩瀬 帯
蜘蛛の巣紋様は「幸運を絡めとる」という意味合いで吉祥紋のひとつです。物を集める文様として用いられ、客を集める事にも通じ、芸者さんや商いを営んでいる人達にも好まれます。蜘蛛の巣に紅葉(もみじ)や銀杏がからみ秋の風情が感じられます。