水辺に広がる風景
豊かな自然とともにある日本。森羅万象のすべてが文様に活かされています。その中のひとつの水文は雲と同様に千変万化する姿がさまざまに文様化されています。水文といえば海や川などがあり、海の砂州を表わす川州文、海浜の松を表わす浜松文、海の生物、波などを海賦文といいます。波では逆巻く波を立浪、海面に見える波頭を幾何学的にとらえた※青海波などがあります。一滴の水が大海に注ぐまでを表わした流水は植物や器物などとの組合わせで用いられています。尾形光琳の水の表現から生まれた光琳水や能の観世宗家の定紋である観世水などがあります。
この度は涼感のある水辺に因んだ文様を展示いたしましたが文様の中には、一見すると景色を映しているようでも何らかのテーマが隠されているものもあります。故事来歴、謡曲や物語の一節などが秘められ、それらを読み解くことも楽しみになることでしょう。
※青海波は舞楽青海波の衣裳として用いられ、江戸時代塗師(ぬし)、青海勘七が特殊な刷毛(はけ)を用いて巧みに描き流布したもの。
流水と琴柱(ことじ) 二越縮緬 長着
琴柱といえば、日本三名園の一つ金沢兼六園の池のほとりに立つ琴柱灯篭が目に浮かびます。そして琴の名曲「春の海」(宮城道雄作)の調べも、どこからか聞こえてきそうです。
海の宝石珊瑚 二越縮緬 長襦袢
真珠と並び「海の二大宝石」といわれる珊瑚。その中でも特に濃い赤は血赤と呼ばれ高知県土佐沖で採取されます。海外では「オックスブラッド」と呼ばれ最上の色合いとされています。
流水に器物文様 二越縮緬 長着
涼やかな流水文様は群青色、霞が藤色で、萩の葉と揃った美しい色合いです。誰が袖、扇、傘の丹色が映え、葡萄色の烏帽子や納戸鼠色の萩の葉が全体を引き締める、色彩豊かな文様です。
波と兎 絽縮緬 長襦袢
徳川家康にも愛された波兎紋様は古くから好まれています。この紋様は謡曲「竹生島」の一節「月海上に浮んで兎も波を奔けるか」から誕生したという。兎も波も長寿を表す縁起物で耳の長い兎は福を集めると考えられていました。
鵜飼い 二越縮緬 長襦袢
漆黒の闇の中、赤々と燃える篝火を川面に映し、鵜匠と鵜が一体となって繰り広げる古典漁法です。今を忘れ、千古の昔にタイムスリップしたかのような幽玄の世界へと誘います。シボ立ちの落ち着いた色合いの縮緬に、伝統文化を感じさせる趣きある文様です。
流水に槌車 錦紗縮緬 長襦袢
大きな槌の中の荒ぶる波頭、青海波。ゆったりと流れゆく水と水のあり様も多様である。それぞれに添う花々も四季折々。槌車の鹿の子と華やかな小さき文様の取り合わせが実に絶妙です。
海松文(みるもん) 二越縮緬 長着
海松は浅い海の岩石に自生する海藻の一種です。円の中に幹を枝分かれしたもので、平安時代より海賦(かいぶ)文としてきものに描かれてきました。水中の泡と海松丸(みるのまる)とのコンビネーションが楽しいですね。
流水に源氏香 平絹 羽裏
流水の中に絞り染の模様源氏香は本来香道の符号である。形の独創性から工芸の各分野で文様として用いられるようになりました。幾何学的な形象でありながら、古典文芸を背景にして雅な趣があります。
青海波と雲取り 二越縮緬 羽織
青海波文の発祥は、古代ペルシャとされ、古くは埴輪にも描かれています。無限に広がる波の文様に未来永劫へと続く幸せへの願いが込められています。たなびく雲の輪郭線に風景をあしらった雲取り文。どちらも縁起が良いとされる吉祥文です。