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四季の展示「秋風によせて」
猛暑の夏を過ごし、吹く風に“あら、もう秋かしら”と秋の気配に季節の移ろいを感じます。
こんな一文を見つけました。
「秋ハ夏ト同時ニ、ヤッテクルー」
太宰治 短編「ア、秋」より
夏の中に秋がこっそり隠れているのですが夏の暑さにだまされて、それには気づかないのであると‥。
秋は澄んだ夜空の月は美しく、虫の音に耳を傾けての読書、散策の折に見つける秋の七草など、コロナ禍の中ではありますが秋を楽しんで下さい。
そしてこの秋の訪れと共に冬もどこかに隠れていて、少しづつ姿を現わすのでしょう。
今回は調査研究室の模様裂の中から“秋”を選び展示いたしました。
籬菊(ませぎく) 竜田川 平絹 羽裏
一重や八重の菊が美しく籬(まがき)と共に描かれています。籬菊と呼ばれる文様です。紅葉と流水の組合せ、竜田川には扇子、ひさご、盃が描かれ、紅葉狩りの宴を連想させます。
奈良便り 二越縮緬 長襦袢
奈良公園のシンボル、鹿の角切りは、秋の風物詩です。名産霰酒(あられざけ)のとっくり、能のルーツ翁舞(おきなまい)なども描かれています。
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」正岡子規
破れ色紙 二越縮緬 長襦袢
霞たなびく鼠色(ねずみいろ)地に各々の四季が色紙に精緻に描かれています。破れ色紙から少し覗いてみえる業平菱や有職文様である立涌など格調高く雅びな趣きがあります。
「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声きくときぞ秋は悲しき」
桜楓文 紋繻子 羽織
大胆に配された色とりどりの楓に、舞散る桜の花びらの地紋が浮んで見え、つつましさも感じられる羽織地。桜と楓の組み合わせは好まれます。こんな羽織を羽織ってお出掛けし秋を満喫したいですね。